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ナビール・ナイーム:元ジハード団指導者

ナビール・ナイームنبيل نعيمさんは、エジプト各紙に非常に頻繁に登場するメディア好き(?)するイスラム主義者です。

1981年にエジプトのサダト大統領を暗殺したことで知られるジハード団の創設者とか、元リーダーとか、単にジハード団指導者とか、いろいろな肩書きでメディアに登場しています。サダト暗殺の容疑で1981年に逮捕、投獄され、1988年に釈放された後、アフガニスタンにわたってビンラーディンやアイマン・ザワーヒリーと行動を共にしたとされます。

私たちは2012年4月に彼にインタビューをしました。

名称未設定

カイロ市内のとある場所にある彼の事務所でインタビューをすることになっており、近くまで来た旨を連絡すると、「あー、早いねえ、もう着いたの?今ちょっと、あなたたちのために冷たい飲み物買いに出てるから、ちょっと待っててくれる?」とのこと。

事前に写真をみた限りではかなりこわいイメージだったし、なんといってもあの過激思想と武装闘争で知られたジハード団の人だからむっちゃゴリゴリの人に違いない・・・という私の先入観は、この一言でもろくも崩れ去りました。エジプト人の言う冷たい飲み物というのは、ジュースとかコーラといった甘い清涼飲料のことを意味するのですが、(元)ジハード戦士が客のためにいそいそとコーラを買いに行く姿を想像しただけでも、なんだかもう・・・という感じです。

実際に会った彼は、写真でみていたよりずっと柔和な顔つきの人でした。彼の事務所には彼のお友達ら数人がわらわらとたむろしており、みんな「ムショ仲間」だと言っていました。事務所は何のために構えているのかとたずねたところ、「まあ、メディア対応用かなー。インタビューとか受けることが多くてねー、あはは」とのこと。

そして彼は、嬉しそうに、自分が出ている新聞を次々と取り出して私たちに見せました。メディアが彼を好きなだけではなく、彼もメディア(への露出)が好きなようです。

彼との質疑応答の一部を以下に掲載しておきます。

Q 現在、ジハード団は存在するのですか?

A 今はもうありません。ジハード団は2005年にジハード思想、武装闘争を放棄し、組織解体にふみきったのです。もともとジハード団は、ジハードを行うためのみの組織であり、人々に対する教育や宣教、慈善活動といったその他の活動を目的とはしていませんでした。だからジハードを放棄することが組織解体に直結したのです。

Q ではあなたは現役の「ジハード団のリーダー」なわけではないのですね?

A ちがいます。新聞によってはそのような書き方がされている場合もありますが、かつてはある程度の地位にあったものの、今はジハード団自体が存在していませんから。

Q ジハード団のメンバーは現在、どうしているのですか?

A ムバラク政権時代に、私たちのメンバーは殆ど逮捕、投獄され、拷問されたり殺されたりした人も多くいます。生き残った者達も、長期にわたって獄中生活を送っていたので、釈放された後は、まずは生活を立て直すことに懸命になっていた人が多いです。彼らは殆ど、思想的にはいわゆるサラフィーなので、サラフィー政党を支持している人も多いと思います。

Q 最近、「アッラー以外に神はなし、ムハンマドは神の使徒」と書かれた黒旗を掲げてデモを行う人々が出現していますが、彼らのことをどう思いますか?

A 黒旗集団は武装闘争を復活させようとしているようですが、このやり方は私たちが過去に実践して失敗したやり方であり、今再びこのやり方を採用しようとすることは、正気を失っているとしか思えません。私は彼らの組織や、個人について知っていますが、具体的な言及は避けたいと思います。

Q アシューシュ師شيخ احمد عشوشやムルガーン師شيخ مرجان سالم الجوهريのように、黒旗を掲げてジハードを称揚する新たなジハード組織が登場していますが、彼らについてはどう思いますか?

A アシューシュもムルガーンも、拳銃すら握ったことのない人間です。彼らはジハードを実際に行ったことなどないし、今後も何もできないでしょう。武器を買うことは誰にでもたやすくできますが、それを実際に使用することは誰にでもできることではありません。実戦の経験のない彼らには、何もすることはできないでしょう。私からいわせれば、彼らはまだひよっ子にしかすぎません。彼らのジハード思想も、馬鹿げていると思います。

Q エジプトには今、アルカイダはいますか?

A 組織としてのアルカイダは存在しませんが、思想としては存在しています。たとえばシナイ半島にはタクフィール思想をもった組織がいくつもあります。それらの中にはアルカイダを自称するものもあります。彼らの人数は全部で500人から700人くらいでしょう。治安当局は彼らのことをきちんと把握していますし、彼らは基本的に分散して活動しているので、彼らが一斉に武装放棄する可能性は低いでしょう。

Q アイマン・ザワーヒリーはかつてあなたに、エジプトでアルカイダ組織をたちあげるよう要請したのですか?

A 確かにそのようなことはありましたが、私はとても無理だと言って断りました。当時は、アフガニスタンでのジハードが終わった後に、それを実行する計画があったのです。

Q 今後エジプトでジハードという名のテロが起こる可能性についてはどう考えますか?

A ジハードはまだ起こりうると考えています。でもジハードを行う可能性があるのは、アシューシュやムルガーンといった年をとった人々ではなく、大学を出ても職のない1千万人の若者でしょう。革命をおこしたのも、教育を受けたのに満足な仕事に就けなかった若者たちです。彼らが社会の不正に気づき、それを変えようと思ったときには、武装闘争でも自爆でも、どんなことでも躊躇なく行うでしょう。

Q あなたは武装闘争は放棄したとおっしゃっていますが、それではイスラム法の適用、イスラム国家の建設という理想はもう捨ててしまったのでしょうか?

A そうではありません。私たちは理想の実現のために武装闘争路線をとり、それを実戦し、そして失敗しました。私たちがここから学んだことは、イスラムには確かに理想があるが、現実を見据えた上で、出来ることと出来ないことがある、ということを見定める必要があるということです。私はただ、現実的なだけです。

Q イスラム主義者の中には、民主主義自体をハラームだとして退ける人たちがいますが、あなたは民主主義についてどう思いますか?

A 私は民主主義は決してよいものではない、と考えています。しかしムバラク政権のような独裁と比べると、民主主義のほうがまだましだと言えます。ふたつの悪(マフサダمفسدة)がある場合には、より軽微な悪、より小さい悪を選択し、より大きな悪を退けなければならないというのが、イスラム法の考え方です。また人々は今、平和と安定を求めています。人々が求めている上に、イスラム法においても、平和と安定が普遍的な利益(マスラハ・アーンマالمصلحة العامة)だとされています。私はこの普遍的利益を保全することが重要であると考えているのであって、民主主義を積極的に擁護しているわけではありません。

私が個人的に一番興味深かったのは、最後の部分です。シャリーアの信奉者として、彼は民主主義とそれにもとづく諸制度、例えば選挙や議会、憲法といったものを決してよいものとは考えていません。しかし急進的にイスラム国家実現をめざすあまり武装闘争に走り、多くの一般市民を巻き添えにしてきた過去をもつ者として、そうした悲劇的内乱状態よりも、まずは平和と安定が先決であるとしているのです。

私はずっとマスラハの研究をしてきたので、「そうそう、イスラムにはちゃんとそういう考え方ありますよねー」と妙に意気投合してしまいました。

ナビールさん、いい人だったな・・・(個人的感想)。



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プロフィール

 飯山陽

Author: 飯山陽
イスラム思想研究者。専門はイスラム法。都内の大学でイスラム思想を教えていましたが、現在はエジプトのカイロ在住、メディアの仕事をしています。
イスラム国に関しては別ブログ「どこまでもイスラム国」をご覧ください。

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